四冊目 中西モトオ氏の「鬼人幻燈抄 葛野編水泡の日々」

四冊目は小説家になろうから書籍化した中西モトオ氏の

「鬼人幻燈抄 葛野編水泡の日々」!

五つにして家を出て、一つ下の妹’’鈴音’’とともに葛野の巫女守だという元治に拾われた甚太は、元治の娘、’’白雪’’と出逢う。甚太と鈴音、白雪は、いつも三人だった。それから長い年月が経ち、白雪は’’白夜’’へ、甚太は巫女守へ。変わらないものなどないとわかっていながらも、変わる前を、まだ幼きあの頃を時折思い出す。

 

ぱちんと。みなわのひびは、はじけてきえた。

 

鬼は悪なのだと思い鬼切り役をしていた甚太は、「己が為にあり続けることこそ鬼の性。鬼は鬼であることから逃げられない。」「為すべきを為す。」と言う鬼に対し、為すべきことを為そうとする人間と、鬼とは変わらないのではと思い始めているのに対し、私たちも、相手と自分、信じるものが、しなくてはならない事が違うだけ、という事を再確認しました。

最後は誰かへの想いよりも、自分の生き方を優先してしまう。たがいに想い合う気持ちに蓋をして、己が善いと思ったもの、決意のために離れる。私はその覚悟がすごいと思いました。私なら、好きな人とは結ばれたいと思ってしまいます。それでも、自分が尊いと思った相手の覚悟を、そしてその覚悟を守ると誓った決意を貫き通す姿は、とても格好良かったです。

そして、二人を応援するために自分の成長を止め、妹としてあり続けた、兄の幸せを考え続けた鈴音の姿に、とても感動しました。

もし、あの時、差し出された両手、木刀を持っていたから片方しか取れなかった手を、もしもう一つの手を選んでいたら、何か違ったのでしょうか。現実に「もし」なんて存在しない。それでも、考えずにはいられない。そんな作品です。

皆さんも是非、鬼人幻燈抄、読んでみて下さいね。

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双葉社 「鬼人幻燈抄 葛野編水泡の日々」